時計を愛する多くの日本人にとっての〈ジン〉は「ドイツ製」「職人気質」「無骨」などといった、インダストリアルなイメージがついて回ります。それがポジティブに捉えられている点では、〈ジン〉には追い風でしかないとは思いますが、実際のところ〈ジン〉がそうしたことを意識的にプレゼンテーションしているか、と問われればおそらくそうではないでしょう。
「目的のための時計」という設計思想が結果的にそうさせているだけで、よくよく知ってみれば非常にフレキシブルなブランドだと分かります。
2022年の暮れに発表されたこのユーロフリーガー IIIは、日本の代理店(株式会社ホッタ)が本国に掛け合って作っている、日本だけのシリーズ。前作にあたる第2弾は2007年だったということで、実に15年ぶりのニューモデルとなっています。
こうした企画に案外(というと語弊があるかもしれませんが…)柔軟なメーカーです。
2002年に発表された初代モデルから一貫して356フリーガーをベースにしており、日本独自のエッセンスが注入されています。ユーロフリーガーシリーズは、ユーロコプター(ユーロコプター社のヘリコプター。警察や救急で使用される)のコックピットに搭載されたオンボードクロックにヒントを得て、ブラックライトに反応し発光する蛍光塗料を配色しているのが特徴。さらに今回は、先代まではなかった蓄光の針とインデックスを採用して、ブラックライトが無くても夜間の視認性を確保しています。
ベースになっている356フリーガーは、1996年に発表されたパイロットウォッチで「完成している」と言っても良い澄んだデザイン。〈ジン〉らしくドイツ軍の基準を満たしたアクリル風防や、ドイツ工業規格である「DIN規格」に準じた耐磁性・防水性を備えています。背景を知らない方にとって蛍光イエローの配色が突飛なものに見えなくもないかもしれませんが、前述したルーツを踏まえるとこれらも「見る」という目的に対して役割を果たす「機能色」だと理解いただけるでしょう。そして腕に収まると、思っている以上に馴染む配色であることに気づくことができます。
3代目の大きな特徴は、まずなんと言っても蛍光色のスモールセコンドの採用。前回まではなかった秒針が加わり、文字盤に存在感を与えました。また、従来どおりのケース径38.5ミリであったりカレンダーの廃止などは、昨今の時計事情にもマッチしています。
左リューズやアクリル風防などは初代モデルと同じ仕様(2代目はサファイアガラスでした)。そして仕様は異なるものの、2代目から継承するリベット付きレザーベルト。3代目だけの蓄光塗料のインデックス・針と紫外線に反応するスモールセコンド。
それぞれの特徴を受け継ぎながら、新しい表情に仕上がったユーロフリーガー IIIは日本国内限定100本です。