2016FWのアイテムにフォーカス
中目黒にあるマーカウェア / マーカ / ユーティリティガーメンツのフラッグショップPARKING。前回、中目黒駅からこのPARKINGへの道のりを特集しましたが、今回はその本編となるPARKINGの取材です。2017SS展示会直前のこの時期、デザイナーもメーカーも大変お忙しい中、ES-WEBの取材にご協力いただきました。
雑誌への露出も少ないデザイナーの生の言葉が聞ける貴重な特集です。2017SSのヒントになる言葉もチラホラ。モノ作りへの飽くなき追求をしていくこのメーカーだからこそのこだわりが詰まったインタビューです。
第三弾は今期のアイテムを紹介していただきます。デザイナーであり一番のユーザーでもある意見がとても参考になります。
素材の熟成を突き詰める
ーー「2016FWがもうスタートしていますね。簡単な概要をお聞かせいただければと思うんですが」
石川「本当にここ数シーズンですね、ますます素材に対してこだわっていきたいと思っていて、その熟成を更にはかったシーズンです。その熟成の過程にあるシーズンだと思っていて。というのも、ここ数年、食に対する興味が凄く強くて、食の世界を考えていくと、もうファーストフードの時代はどんどん終わっていって、もっと材料や生産者の顔が見えるものを食べていきましょうとか、マクロビ※みたいなものが世界中にどんどん広がっていってとか。そういう流れがある中で、洋服の世界って日本ではまだまだファストファッションが凄く強い時代じゃないですか」
※マクロビオティック…第二次世界大戦前後に食文化研究家の桜沢如一が考案した食事法にないし食生活法。名称は「長寿法」を意味する。玄米を主食、野菜や漬物や乾物などを副食とすることを基本とし、独自の陰陽論を元に食材や調理法のバランスを考える食事法。(Wikipedia参照)
ーー「そうですね」
石川「そこに対するアンチテーゼの方向として、一つはハイファッションというものがあると思うんですけど、それは凄く豪華で良い素材を使って、きらびやかなショーをやってきらびやかな世界があって。僕はそっちじゃなく違う方向で、ファストファッションじゃないところをしっかりやっていきたい思いがあるんで。ファストファッションも素材にこだわっていると思うんですけど、それは大前提として超大量に採れるとか、グワーッと産地のものをかき集めたりしなきゃいけないんですけど、そういうことではなくて、本当に良い素材を世界中から集めてきて、生地をちゃんと作っていくところからまずスタートしたいと思うんで、それを熟成させる過程だったと思うんです。例えばウールならシェットランドウールとオーガニックウールを使っているんですけど、良い生地を作ってシンプルな洋服に落とし込んでいくということだと思っているんです。僕にとってのファストファッションとの反対のものだと思っていますし、それこそ僕らが少量生産で少し高い洋服をやる人間なんで、僕らがやるべきことかなと思っていますかね」
ーー「世界中から良い素材を集めてくるっていうのは、どこから見つけてくるんですか?」
石川「たとえばシェットランドウールでいうと、これまで男性用のセーターの中で何が一番好きかと考えるとシェットランドウール。ニットにした時の膨らみ感とか暖かさとか、そんなにチクチクもしないし、ちょっと荒っぽい糸だと思われていますけどそんなことないですし、シェットランドウールって男性のセーターで一番良い素材だよなって思ってるんですね。そこから素材を徹底的に探すんですけど、本物のシェットランドウールって日本に入ってくる量が凄い少ないんで、色んなところに声をかけまくって、どこかで手に入らないかと」
ーー「そうなんですか、意外と足で探すって感じなんですね」
石川「そうですね。オーガニックウールもそうです。日本では本当にちょっとしかなくて、とにかく全部周りに声をかけて」
ーー「生地ではなく原料で」
石川「もちろん原料です。生地ではなくワタとしてあるものを。糸としてあれば僕らとしては簡単なんですけど、そういうものって原料としてしか無かったりするんで、ワタの状態で日本に入ってくるものを『この番手※でこの糸にしてください』というところからスタートします。例えばシェットランドウールもワタとしてあるものを、『ニット用の◯番手と、織物用の×番手の糸にしてください』ってお願いして。オーガニックウールもそうですし」
※番手…糸の太さを示す単位。
ーー「なるほど。素材のこだわりを熟成していくということですが、これは完成形に近いなと思えるものはあるんですか?」
石川「まだまだです。それは毎回未完成…と言ってはアレですけど、毎回課題は残りますね。例えば織物としては完成しているかもしれないけど、仕上げの部分もっとこうしたかったとか、こういう風合いにしたかったとか、いつもイメージと必ず違うのものなので」
ーー「半年のシーズンコレクションでずっと続けていくには難しいと」
石川「そこは凄くブランドとして難しい。新しいもの、新しい素材を毎回出していかなければいけない課題として、絶対出てくるんですけど、そうすると自分の中での完成形を見いだせないまま終わってしまう。例えばこういうモノ作りの仕方をしていると、今オーガニックウールを数シーズン続けていますけど、それはやっぱり熟成していかないと良い素材ができないですし、前回の反省を踏まえた上で『この糸だったらこういう織り方してこういう仕上げをすれば良かった』っていう後悔があるんで、次のシーズンにどんどん熟成していかないといけないと思うんですよ。お客様にとっては『前シーズン同じものがあったじゃん』ってなっちゃう可能性があるんで難しいところですけど、前シーズンとは原料は同じかもしれないけど、自分の中では前回の反省を一歩良くしているつもりなんですね」
ーー「ブランドとしては毎回アップデートできている」
石川「していっているつもりです、凄く。でもそれが微妙な変化だと伝わりづらいから、全然違う素材を使っちゃった方が分かりやすい。ただそういう(スピードの早い)モノ作りをしていて良いのかなと。スローなものを作っていく中ではスタンスとして違うんじゃないかなと思うんですよね」
ーー「できれば同じ素材を使って」
石川「同じ…原料でも良いんですけど、今回は『こういう織り方にしてこういうものにしました』というのを深めていきたいと思っているんですけどね。そういう意味では熟成させていかないとできないでしょうし」
ーー「では基本的には熟成自体は毎シーズンあるけれど、今期に限って言えばかなりフォーカスしているんですね」
石川「そうですね。そういう気はしていますね」
画像は1タックトラウザーズ。以下の画像はワイドパンツ型及びテーパードパンツ。
41KHAKI
ーー「今回我々が5つアイテムをピックアップしているんですが、詳しく教えてください。まずは」
石川「41カーキ※ですね。シルエットは毎シーズンに近いくらい変えてるんですが、ずっと作り続けているもので、僕もチノパンの一番ベースになるものだと思っているんですね。大好きなもので。41カーキのカッコよさは、シルエットはちょっとどんくさいけどそんなに太すぎず良いシルエットというのがあるんですが、今回は当時の本物に近いものを用意しています。素材に関してはオリジナルは『ウェストポイント』と呼ばれる素材でタテも双糸※、ヨコも双糸。いわゆる『ノの字綾(右綾)※』にしたもの。高密度に織り上げて最後に綺麗な光沢を出す『コールドマーセ加工』を入れたものなんですけれども、その生地を忠実に再現した生地を使っています。この生地の良さっていうのは洗い込んでいった時にもカッコいいんですよね。打ち込みもしっかりしているから、10年20年穿き込んでボロボロになった後も良い雰囲気を出してくれる良い素材だと思っています」
※41(ヨンイチ)カーキ…第二次世界大戦時、戦闘服として素材していたM41かルーツ。中でも熱帯地用の軍服に属するとされる。
※双糸…生地は経糸と緯糸で織られており、その糸を何本使うかで名前が変わる。1本は『単糸』、2本は『双糸』と呼ぶ。
※ノの字綾(右綾)…綾織(ツイル)の一種で、生地を見ると右上がりに織られているもの。一般的なデニムパンツやチノパンツは右綾。反対に左上がりになっているものは『逆綾』と呼ぶ。
ーー「穿き込んでもこのツヤっぽさは出るんですか?」
石川「あのね、底光りみたいな感じで、ちょっとしたツヤっぽさがやっぱあるんですよ」
ーー「ほぉ」
石川「普通のチノって単糸で荒っぽい糸を使って織ってるんですけど、双糸でより細い糸を使っているのとマーセライズ(コールドマーセ)加工が微妙に残ったりして、打ち込みも良いから独特のとろみが出てくれて。キレイなうちにキレイな穿き方を楽しんでもらう以外にも、作業着的にガンガン穿いていってもらいたい」
ーー「実際タフな素材ですもんね」
石川「タフな素材ですね。アメリカの大量生産のモノ作りっていうのが凄く面白いなと思っていて。合理的に効率的に考えていて。それを今再現しようと思うと逆に非効率なんですけど、ちゃんと再現したいと思っているんで、例えばこのパンツでいうと、帯裏がチェーンステッチになっている。これ一つとっても結構面倒なんですよ」
ーー「そうなんですね」
石川「あとこの極細幅の両玉縁※っていうのは、昔の工場は手でやっていたからっぱでやっていたか分からないけど、41カーキの一番の特徴の一つがこのキレイな細い玉縁」
※玉縁…パイピングともいう。ポケットの口の部分が両側パイピングされているものを両玉縁、片側だと片玉縁と呼ぶ。
ーー「かなり細いですよね」
石川「そうですね。1.数ミリの玉縁を入れていく。これは機械でやっているんですけど、41カーキの命だと思っているんで」
ーー「当時もこの細さだったんですか」
石川「そうなんですよ…昔もこの細さで。それがカッコいいんでしっかりやっているパンツです。シルエットに関しては昔のものよりもモダナイズしていて。前にうちで作っていた細いシルエットじゃなくて、少しゆとりをもたせてレギュラーな感じで使えるのと、裾までワイドにしたものとあります」
ーー「1タックのパンツがありますが、うちでもかなり売れちゃって、一回パーキングにお願いしたくらいだったんですが」
石川「あれは1960年代の米軍のパンツの縫製仕様をベースにしていて、ベルトループも太いと思うんですけど、ベトナム戦争の頃のシルエットをベースにして1タックにしているんですね」
ーー「ルーツが別にあるんですね」
石川「そうですね、同じ素材を使ってるんですけど別のルーツで」
NEW ZEALAND WOOL T-SHIRTS
ーー「次はウールTシャツ」
石川「ちょっと話が長くなるかもしれないですが、僕個人的に10月後半くらいから春まではほぼウールのTシャツを着ているんですね」
ーー「春まで」
石川「暖かくなるまではずーっと着ています。なぜウールのTシャツを着ているかというと、まずは暖かくて、汗かいても抗菌作用で汗臭くならないですし、肌着としてのウールって本当に優秀なものだと思ってるんですね。最近はパンツ(下着)もウールのものを選んでいるんですけど。自分のところでも作りたいと思ったんですね。アウトドアウェアメーカーが使っているウールってどういうものなんだろうっていう研究から入って、辿り着いた答えが…これは最終的には商社でスポーツウェアやっている方と話をして分かったんですけど、『ニュージーランド産のメリノウールが一番良いよ』っていう話で。だいぶ研究されて、何年も前に研究された結果辿り着いたんですね。それも日本人の肌にチクチクしない繊維の細さが18マイクロン以下じゃないとダメだと。これを僕らが日本製で僕らのブランドとしてどういう方法が一番良いかを考えると、これを和歌山のカネキチ工業※さんで、丸胴※の吊り編みにしてもらおうと」
※カネキチ工業…今でも旧式の釣り編み機を使いカットソーを編むことができる生産工場。吊り編み機が使える工場は世界に2つしかないと言われている。ハイスペックな現代の機械に比べ、生産スピードが劣るものの、ふっくらとして洗い込むと柔らかさが増す生地は吊り編み機以外では味わえない。
※丸胴…脇に縫い目のないボディのこと。筒型に編むことから丸胴と呼ばれる。シェイプがかけられないが、着心地が良く生産的にも無駄がない。前後を縫い合わせたものは『横割り』と呼ぶ。
ーー「これ…資料には世界初じゃないかと書いてありますね」
石川「そうですね、吊りでこんなアウトドアウェアメーカーが使うような糸を使って作ったのは初じゃないかな。吊り編みにすることによって、ニットのような膨らみ感、カットソーなんでハイゲージなものですし、本当に肌触りの良い生地ができあがったと思います。丸胴なんでもちろん脇ハギも無いですし、当たる箇所も少なくて。丸胴だからボックスシルエットになるんですけど、それが落ち感で凄く良い雰囲気ですし」
ーー「これいま山本さんが着られて」
石川「そうですね。上質なニットみたいな見た目で」
ーー「凄く繊維が細い」
石川「そうですね17.5マイクロンというのは凄く細い。カシミヤは17マイクロンとかなんですけど、それに近い。チクチク感もなく」
ーー「艶っぽさもありますね」
石川「そうなんですよね。良い原料なので、光沢感があります。繊維が細ければ細いほど光沢感が出るので」
ーー「実際、サンプルをご自身で着用なさって生活されたんですか」
石川「前の展示会のタイミングでサンプルが上がってきた時に着ました。凄く良いです」
ーー「凄く良いですか(笑)」
石川「アウトドアメーカーのやつってもうちょっとウール自体は柔らかいんですが編みに固さがあるっていうか。こっちの方がトロンとしていますね」
ーー「確かに手の上を滑るようなスルッとした手触りですね。これお洗濯はどうされているんですか?」
石川「基本的にはネットに入れてもらいたいんですけど、僕はそのまま洗濯機でガンガン回しています」
ーー「あ、そうですか」
石川「防縮加工もしているんで。でもできればネットに入れて洗濯機で洗ってもらって」
ーー「洗濯機で洗えるだけでも全然良いですね」
石川「そうですね。イスの背中にかけて干してもらえれば型崩れもしませんよ」
ーー「洗い込むとどう変化するんですか?」
石川「ちょっと毛羽立ちはもちろんありますけど、大きな変化がなくフワッフワになるだけで」
山本「汗臭くならないですね、本当に」
石川「本当にならないよね。ウールのTシャツって暑いイメージがありますけど、上に何か着て風を防ぐと空気の層を保つんで凄く暖かいんですけど、一枚で着ていると意外と涼しいんですよね」
ーー「通気性ありますもんね」
山本「ありますあります」
石川「そうなんですよ。ウールって毛に固さじゃないですけど膨らみ感があるんで、編み目が膨らんで風通しが良くなるんですよね」
山本「汗がお腹に溜まらないんですよね。地厚のコットンものとかって真夏は暑いんですけど、それが全然ないんで本当に軽く」
ーー「吸水して、発散して」
石川「本当に良いと思います。ニオイも付きづらい」
ーー「良い話ですね。ちょっと…買おう」
一同(笑)
ーー「もうひとつ聞きたかったのは、カットソー全般で『スプリットラグラン※』がよく採用されていますけど、これはどういうものなのでしょうか」
※スプリットラグラン…前は一般的なTシャツのようにセットインスリーブで、後ろはラグランスリーブになっているもの。1サイドラグランとも言うが、マーカウェアでは呼び方によって形を分けている。
石川「これは単純にデザイン性を入れていく意味合いで。セットインスリーブだと面白みが少ないと思って。めんどくさいですけど」
ーー「なんか大変そうですよね」
石川「(笑)肩周りキレイに見えるし、ほんのちょっとしたものを足すっていうことですね」
ーー「シンプルだけど、他とちょっと違うなって見え方をしますよね」
石川「Tシャツはほとんどスプリットラグランか1サイドラグランかですね」
ーー「これはもともとルーツがあるんですか?」
石川「もともとはコートでやってたんですよ。トレンチコートでやっていて、『カットソーもこれにしたらカワイイな』と思って」
ーー「完全にオリジナルなんですね」
APRON SHIRTS
ーー「次はエプロンシャツ。僕も買いましたけど」
石川「ありがとうございます」
ーー「エプロンシャツは2種類あると思うんですけど、一つはぐるりポケットがあるタイプ、もう一つは前のポケットだけ省いたタイプ」
石川「そうですね。正式にはエプロンポケットシャツと呼んでいます。あるシーズンにエプロン作ったり、パンツに前掛けみたいなものを付けたりしていたんですけど。シャツでも何かあると面白いなと。アウター代わりに着られるものが欲しいと思っていて、以前はワイヤーシャツというのがあって人気だったんですけど、アウターとして着られるシャツが無かったなと思っていた時に、アウターとしての機能は何が必要だろうと考えて、僕カバンを持ちたくないので。手ぶらが一番好きなんですよ。でも最近って持ち運ぶものが増えちゃったじゃないですか。財布持たなきゃいけないし、鍵もいっぱいあるし、ケータイもあるし」
ーー「本もあるし」
石川「本もあるし。じゃあ全部収納できるシャツが欲しいなと思ってですね。そしたらぐるり一周ポケット付けちゃえというのでスタートしたものですね。それが最初のモデル。シャンブレーとかでやったんですけど、自分で使っていても思いのほか便利で。ただ、シャツとしてはクセは強いので」
ーー「そうですね」
石川「それに前にモノを入れていると座った時とかに結構落ちやすかったんです」
ーー「生地が横になった時に」
石川「そうなんですよ。どうしても落ちやすかったりする。ジャケットを着ても前だけ見えちゃうんで、無くそうと思ったのが2016SSからやってる、フロントのポケットが無くなったエプロンシャツですね」
ーー「そこが無くなっただけで随分見え方が変わりましたね」
石川「そうですね。クセが少し無くなってスッキリするし、でも収納力はそこそこあるし。ちょっとその辺出掛ける時は便利です」
ーー「現代的なデザインという観点で考えると、多分一般的なブランドですと、ポケットは隠すと思うんですよ、デザインの要素として内側に。でもこれは表に出ている」
石川「はい」
ーー「嬬恋にある別荘(PARKING ASAMA BLANCH※)でシャツやパンツを使って作業をするためには表に出す必要があったということですか?」
※PARKING ASAMA BLANCH…都会と田舎を行き来する生活のためにDIYでリノベーションした家。休むための別荘ではなく生活・仕事の拠点ともなっている。
石川「そうですね。一つはシャンブレー素材は汚れが目立ちにくい素材ですし、色々ポケットに入れて庭で遊んだりする時や歩きまわる時に、枝を拾って入れたり(笑)一式入れられるようにしたいなと思ったんですね」
ーー「目的と洋服が凄くリンクするデザインだなと思いました」
石川「機能の方が全面に出ていますからね」
ーー「それがデザインとして活きているなという気がします」
石川「キレイな見せ方をするならポケットを内側に隠したり脇から入れたりすれば良いんですけど、収納力が落ちたり、変な膨らみが出たり、あと白い素材だと透けたりするのが嫌だなと思って、だったら表に出したら一緒じゃんっていうのがあるんですよね」
JUNGLE FATIGUE
ーー「ではジャングルファティーグです」
石川「本当に最初作ってからどれくらいだろうって感じがするんですけど。個人的にはジャングルファティーグパンツが好きだったりしたんです。ミリタリーって秋冬モノがいっぱいあるんですよ。モッズコート、M-65、M-51、モッズパーカ、フライトジャケット、レザー。春夏の軍モノって結構やりにくい感じが昔はあって。ジャングルファティーグって古着では安いものだったんで、ブランドがわざわざ作る必要ないよねって感じだったんですけど、まああっても良いんじゃないと思ってスタートしたんですね。結構前なんですけど」
ーー「いつ頃からですか?」
石川「いつ頃だったんだろうね」
庄司「10年くらい前ですかね」
石川「ね。2006、7年とか」
庄司「僕が前の店の時にはありましたね。その時も人気でしたね」
ーー「その頃からずっと人気だったんですね」
石川「シルエットは全然違うんですけど」
ーー「当時は細身で」
石川「細身。凄い細身です。自分で古着で持っていた1stっていう一番古いモデルをベースに作り始めて。何年かやっていなかったんですけど、また自分でも欲しいと思って、作るにあたって、前も素材は別注でお願いしてたんですけど、今回も別注でやろうというのでもう一回生地を全部見なおして、糸の分析をやって。オーガニックの原料を使ってやってますね。本当に便利なアイテムなんでこれは。作業着ですもんね完全にね」
ーー「そうですね、汚れも気にせずパッと着られて」
石川「気にせずにバンバン着られて」
ーー「シワも気にならず」
石川「ガンガン洗えて。本当に便利なアウターですよね」
ーー「最近はそのカーディガン(JAPANESE CARDIGAN)を着られていることが多いですね」
石川「そうですね、暑い時期はもうこればっかりですね」
ーー「夏も長袖なんですね」
石川「これ歳とってからなんですけど、日に焼けるとアレルギー症状みたいになっちゃって」
ーー「そうなんですか」
石川「体質変わってアレルギーがいくつか増えちゃって。何年か前から赤くなったり、痒くなったりして、ある時日光アレルギーだって気づいて」
ーー「へえー」
石川「日差しが強すぎるとダメなんでなるべく長袖着るようにしてますね」
ーー「ウオモでも着られていましたよね」
※ウオモ…集英社発行のファッション誌。いわゆるアラフォー世代を意識した内容で、大人っぽくもカジュアルな提案をする。
石川「そうですね(照)」
SAILORMAN COAT
ーー「最後はメルトンコートなんですけど。デリバリーが(インタビュー時は)まだの商品です」
石川「ルックの一番最初で着ているものですね」
ーー「うちのエッセンスの小野はえらくお気に入りで」
石川「あ、本当ですか。秋冬なのでヘビーな素材も欲しいのでやってるんですけど。実際触ってもらうと凄い柔らかい生地で、本当に良い原料を使っていて。それこそ高級なスーツに使うような良い原料をわざと紡毛にしてメルトンにして作っているコートで、着た時に微妙なドレープがあったりするんですけど。形はもともと1930年代に作られた米海軍の10ボタンのPコートをベースにして少し着丈を長くしたりで作ったものですね。当時の軍服って今より自由で、テーラーさんで自分で仕立てたり一般的に行われていて、上級の人になるとルールに則って仕立てたものが色々あるんですね。その中でカッコいいなと思うものをベースにしてやっていますね」
ーー「最近ちょっと幅のあるシルエットのものが多いんですけどそちらのシルエットにしている理由はあるのでしょうか」
石川「単純に僕自身が横幅が大きくなってきたからというのもあるんですけど、ブランドをやっていく中で折り合いをつけないといけない部分がいくつかあるんだと思うんですけど、トレンドとどう折り合いをつけるのか自分の中で納得性をもたせてやっていかなければいけないなと思っていて。個人的には太めのものや大きなシルエットのものって好きなので、ちょこちょこ入れてきてたんですよ、今までも。例えば太いパンツを入れたりしたんですけど、どうしてもうちは細いシルエットのもののイメージが強くて」
ーー「そうですね、マーカは特にそういう印象がありますね」
石川「自分の中で打破したい思いがずっと強くあって。世の中、細いものから太いものにまずレディースから先行して変わっていく中で、細いものをやり続けるのに限界を感じていて。一気に変えてしまうのはダメだと思ったんで、ここ何年かで徐々にやっていたつもりだったんですね。大分移行させてきたかなと」
ーー「そうですね」
石川「これって凄く難しいのが同じパタンナーさんでやっていると、『このブランドはこういうものだから』って前やっていたパタンナーの原型からなかなか離れられないんで、実際にモノを作っていく上でもシルエット変更していくって大変なことなんですね。でもパタンナーさんを変えてしまうとモノが全然変わってしまうんでそれはダメだし、だから同じパタンナーさんで徐々に感覚を変えていていってもらうことをやっていかないといけない。ここ数シーズンかけてやっていっています。あとはお店さんが売りやすい、売りにくいはあると思うんですけどね」
ーー「もともと古いマーカファンとか、ユーザーさんにとっては細いものの方が」
石川「好きな人が多いかもしれないので、要望に応えられないかもしれないですけど、トレンドとの折り合いもありますし、自分が細いものを着なくなっているのに細いものを出し続けるのもどうなのっていうのがありますし」
ーー「正直ではないですもんね」
石川「そうですね。たまに細いジーパン穿いたりするんですけどね」
PART4へ続く