石川俊介のルーツから現在まで。
中目黒にあるマーカウェア / マーカ / ユーティリティガーメンツのフラッグショップPARKING。前回、中目黒駅からこのPARKINGへの道のりを特集しましたが、今回はその本編となるPARKINGの取材です。2017SS展示会直前のこの時期、デザイナーもメーカーも大変お忙しい中、ES-WEBの取材にご協力いただきました。
雑誌への露出も少ないデザイナーの生の言葉が聞ける貴重な特集です。2017SSのヒントになる言葉もチラホラ。モノ作りへの飽くなき追求をしていくこのメーカーだからこそのこだわりが詰まったインタビューです。
第一弾は生い立ちからアメカジに興味を持つまでの、いわばマーカ誕生のルーツを探るお話です。
PARKINGってどんなお店ですか?
ーー「早速お話を伺わせていただきます」
石川「はい」
ーー「直営店である中目黒のパーキングは、まずどんなお店なんでしょうか?店名もユニークで…僕らは知っていますが、改めて教えていただければ」
石川「(笑)えーっと…ここのお店はもともとはアトリエとして借りたんですね」
ーー「へええ」
石川「ちょうど事務所の物件を探していて。中目黒に小さなお店※はあったんで、そのお店に近い方が良いなと思っていて。中目黒で探していた時にたまたまガレージを事務所物件として貸しますっていうのが見つかったんで借りたんですね。当初はアトリエにしていました。展示会もできるスペースとして良いなと思って借りたんです。でも場所も中目黒駅からも比較的近いし、それだけじゃもったいないので週末だけはお店にしようと」
※小さなお店…markaの直営店「MANSION OF OWLS」。現在は「PARKING」としてリニューアル・移転しMARKAWAREを中心に取り扱っている。
ーー「なるほど…」
石川「でやってたんですけど、直営店があって週末こっちもあってとなると人(人員)の問題が出てきまして。最終的には向こうはショールームにして、こっちを完全にお店にしようという感じでだんだん変化してきたんです」
ーー「ほぉー」
石川「僕としてはアトリエショップの方が面白いと思ってるんで、また戻していきたい思いもあるんですけど」
ーー「ああ、そうなんですか」
石川「はい。向こうもショールームとして借りっぱなしだし、川沿いなので駅からも近いし、(お客様が)行くのは便利なのでそっちで営業して、こっちはアトリエにしたい構想はあります」
ーー「へえぇ」
石川「ここはビルのガレージだった場所なんで、だったら名前『パーキング』でいいかと」
ーー(笑)
パーキングの外観。大きなガラス戸の前にミニが駐車してある。もともとガレージだったことに由来する。
石川「当初は中に車も置いていたんですね」
ーー「車お好きですもんね」
石川「そうですね。車全般が大好きで。一番最初はラリーカーが好きで。当時はプジョーだったりランチャーだったり、もっと遡るとミニだったり」
ーー「お店の前にも(ミニが)ありますけど私物ですか?」
石川「そうです」
ーー「ずっと置いてありますよね」
石川「今もう壊れてて。エンジンいじりすぎて(笑)もともとはメチャメチャ早いです」
どんな人たちがマーカウェアに携わっているんですか?
ーー「我々よく、マーカの皆さんのことを『チームマーカ』とか『チームエグジステンス※』って呼んでるんですけど」
※エグジステンス…自身が立ち上げた株式会社エグジステンスのこと。
石川(笑)
ーー「どんな会社なのか、『エグジステンス』の経緯とかを教えていただければ」
石川「どんな会社か…あんまりイメージしたことないので難しい」
ーー(笑)
石川「まあ…もともと僕がモノ作りするところに、共感してくれる人たちが集まってきてくれたと思っています。ここ(用意した資料)に書いてくださっている『モノ作り集団』っていうのは一つ当たっていることで。僕自身が手を動かして作るわけではないんですけど、作っていくのが大好きな仕事なんで、そこにみんな集まってきてくれたんだと思うんですね。こだわりをもってモノを作っていくことが好きな人たちなんだろうと思ってるんですけど。会社名の由来っていうのはそんなに深く考えてつけたわけではなくて」
ーー「そうなんですか」
石川「『エグジステンス』って『存在する』とか『実存主義』とかって意味なんですけど、社会に自分たちが存在する場所をしっかり作ってやっていきたい思いから名前をつけたんですね」
ーー「なるほど。今在籍されている庄司さん※とか木村さん※とか、他の仕事をされててこちらに移ったんですか?」
※庄司さん…ショップマネージャー、プレス。パーキングの顔として多くの人に愛される兄貴分。
※木村さん…生産、パタンナー。デザイナーをもってして『天才』と言わしめるパターンをひく。
石川「ですね。木村はもともとワールド※でパタンナーやってて、庄司は近くのセレクトショップで店長やっていてうちに来たって感じですね」
※ワールド…日本屈指のアパレルメーカー。アクアガール、インディヴィ、インデックス、タケオキクチなど数多くのショップを展開している。
ーー「もう長いんですか?」
庄司さん。パーキングでは兄貴分的存在。
庄司「僕…がマーカに携わってもう長いですね。10年以上…」
ーー「10年…」
石川「バイイングとか含めていくと」
庄司「結構初期の頃から知っていると思います」
ーー「一番古株は」
石川「会社としての古株は…」
庄司「木村です」
石川「そうだね、洋平(石川さんの弟)を抜くとね」
デザイナーの石川さんのルーツ
ーー「ではですね、石川さんにフォーカスを当てます。もともとの経緯や、今までどんなことをされてきたのか」
石川「生まれは広島なんですね」
ーー「あ、広島なんですか」
石川「出生になると広島なんですよ。2歳くらいまでしかいなかったんで全く記憶に無いんですけど、唯一覚えているのは隣に済んでいた家の子供に噛みついていた記憶がある」
ーー「(笑)普通そのくらいの記憶って覚えていないですよね」
石川「普通3歳とか4歳からって言うじゃないですか。環境が大きく変わったから覚えているんだと思うんですよね。母親が広島出身だったんでそこで生まれたんですよね。その後、ずっと30歳まで兵庫県でした」
ーー「では、向こうで就職されて」
石川「そうです。で、その間学生時代は…中学校からギターを始めて、高校時代はずっとバンドやってました」
ーー「へえぇ!そうなんですか!」
石川「パンクとか…コピーバンドですけど」
ーー「そういうルーツがあるんですね」
石川「はい。当時は一番の憧れはロンドンでしたね。パンクだったりモッズだったり。高校最後の頃はベスパに乗ってモッズコート着て」
ーー「おぉ(笑)」
石川「当時ねキャバーン※っていう、国内か国外か分からないブランドでしたけど3万円くらいの安いピッタピタのスーツ着てましたね。ヴィヴィアンウエストウッド※もブランドが始まってそういうのに憧れたりとか、ジャンポール・ゴルチエ※とかが盛り上がっていたりとかでイギリスに憧れて」
※キャバーン…イギリスのモッズ御用達ブランドと思われる。英国製を謳いながらも品質はそこまででもなかったようだ。
※ヴィヴィアンウエストウッド…イギリスのブランド及びデザイナー。王冠と地球を組み合わせた『オーブ』と呼ばれるロゴが有名。後にセックス・ピストルズをプロデュースする。日本ではもともと有名なブランドだったが、漫画「ナナ」で主人公が身につけたことで爆発的に知名度を上げた。
※ジャンポール・ゴルチエ…フランスのブランド及びデザイナー。いわゆる高級プレタポルテ(既製服)。歴史も長いことから数多くの著名人に愛され、衣装製作なども手がけてきた。
ーー「それはちょっと意外でした」
石川「大学に入る頃から完全にアメカジになっていって」
ーー「それは何かきっかけがあったんですか?」
石川「なんだったんですかね…単純に流行りだったんだと思うんですけどね。世の中アメカジブームになって。アメカジの洋服の面白さにハマったんですよね。大学生になったのが1988年で、まだバブルの中で、大きく分けるとアメカジか…当時イタカジっていう言葉があったんですけど」
ーー「イタリアンカジュアル」
石川「イタリアンカジュアルを着ているか。ちょうどその頃に渋カジ※ブームっていうのが来るんで」
※渋カジ…渋谷系カジュアル。1980年代後半から90年代前半にかけて起こったブーム。ポロシャツにデニムパンツにローファーといったスタイルが代表のカジュアルスタイル。紺ブレ(紺のブレザー)が象徴的なアイテムとして挙げられる。
ーー「世代的には名前しか聞いたことないです」
石川「そうですよね。渋カジブームが来て、完全にアメカジにハマっていきました。そこから僕の今の洋服のルーツみたいなものが始まり出すんですけど。当時ね、日本のクラブカルチャーが盛り上がり始めたんですよ。高校生の頃はほぼディスコで、大学に入る頃にクラブができ始めたんですね。それまで僕らも白人音楽ばっかり聴いていたのが一気に黒人音楽になっていって、ヒップホップなんかもどんどん聴くようになってクラブで遊ぶようになったんですね。クラブに集まる連中って色々で、それこそ黒人音楽中心だとB系※の連中がほとんどなんですけど、スケーター※もいたし色んなコがいましたよ。僕も19か20くらいにクラブで働いていたんで、どんどん刺激を受けていったんですよね。その中でもアメリカのものが好きになっていったんです」
※B系…旧来のヒップホップカルチャーに精通する、大きなサイズの服や大きなアクセサリー、バスケットボールシューズなどを好むファッション。
※スケーター…スケボーを愛用する人及びスケボーをルーツに持つファッション。動きやすさや耐久性を重視しつつ、垢抜けたスタイルを特徴とする。